ネームプレート作成プロセス
−湿式エッチングの利用を含めて−
上原 洋一
金属(特に黄銅)のエッチングを中心としたネームプレートの作製プロセスについて概説 する。
表面技術 第49巻 第10号(1998)小特集/湿式エッチングとその応用より
 はじめに

ISでは「銘板とは、金属、プラスチックまたは紙を素材とし、必要な事項を容易に消えない方法で表示したもの」1)と定義づけている。詳細はその「解説」にゆずるが、今日では、ネームプレートの持つ本来的な機能である説明事項の他に商品のデザイン的なワンポイントとしての意匠性も要求されている。従って、実に多様な素材が選択され、その表面処理もさまざまな加工技術が組み合わされて構成されることも多い。
 このようなネームプレート全般についての解説書2)は少ないが、業界では、東京都地場産業振興対策事業(昭和63年〜平成4年)、同じく高度化対策事業(平成6年〜平成9年)に取り組み、その結果、技術や需要などについての重要な資料が蓄積されたので、
詳細はそちらが参考になる3)〜6)。
 なお、スクリーン印刷を中心にしたネームプレート7)、アルミニウムの写真感光法8)、その他オフセット印刷・アルミパネル9)などについては、別紙を参考にされたい。そこで本論では、金属を主体とした主に板物のエッチングプレートに絞って解説する。参考までに製品のサンプルを図1に示す。

図1
 
 作製プロセスの概要

ネームプレートは多様な技術の組み合わせからなるが、その基幹となる技術は、素材の所定の位置に文字やパターンを構成するための「マスキング技術」である。エッチングといえば腐食する所要のところとしないところを、何らかの方法で区別することが必要になる。通常は必要な文字パターンを写真に撮り、そのフィルムをいわば一時的なマスキングとして使用するので、フォトマスクと呼ばれる。厚さは100μmのものが使用される。したがって、作業に先立ち、文字やパターンのアートワーク(版下)が必要になる。そこで、まず、アートワーク・フィルムの作製について述べる。

 
 アートワーク・フィルム の作製

アートワークは顧客から支給されることもあるが業者が作製することも多い。伝統的には、紙に烏口で書くとか写植の文字を使用する方法がとられてきたが、近年では、パソコンの普及にともないコンピューター上で指定文字やパターンを作ることが主流になってきている。フィルムの作製についても、版下を製版カメラでフィルムに撮り、その後、種フィルムを機械で増殖し取り数により面付するという従来の方法よりも、パソコンからそのままフィルムに出力したり面付する電子化の進歩がここでも著しい。製図や金型作製上でのCAD・CAMの普及と共通するものがある。詳細は別にゆずるとして、板状のマスキングで精密なパターンニングをするためには、アートワークから材料の大きさにあわせ、経済的に面付されたフィルムの作製が必要になる。

 
 マスキング手法

以下に述べるように、なんらかの形でマスキング材を金属表面に均一に構築する前に、材料を所与の大きさに切断し、その後、整面脱脂・乾燥をして、マスキングの食付をよくする。その上で、マスキングのためのレジスト材を選択することになる。
 文字やパターンを作製するためには、大別すると表1のように写真感光法とスクリーン印刷法とがある。写真感光法は、加工する金属表面に感光剤を塗布したり感光フィルムを貼り付けたりした素材と版下から作製したフィルムとを真空焼枠の中で密着させたうえで高圧水銀灯などを光源として露光する。その結果フィルムの光を透過した部分は硬化し、現像しても、金属表面に残存し、エッチング時のマスキングの役割を果たすことになる。反対に光が透過しなかった部分は光硬化していないので現像時に洗い落とされてマスキングがなくなるので、エッチングがされる部分になる。このタイプのフォトレジストはネガ型と呼ばれる。反対のタイプのものはポジ型と呼ばれる。
 写真感光法は、使用するレジストの種類により、ニカワ法、ドライフィルム法、液体レジスト法の3種類に分類される。
 伝統的な手法としては、感光剤としてニカワがベースとして、使用されてきた。ニカワはレジスト性が強く、膜圧も5〜8μmと薄く構成でき、現像も湯洗で済むなどの長所も多い。一方、ピンホールテスターとしてアニリンによる染色や感光皮膜の膠着のためにバーニング工程が必要となる。その後でレジスト面の細かい手作業による修正などが必要で、工程数が多く手間がかかるという短所もあるが、元来多種少量生産のネームプレートには、設備資金も少なくて済むので向いている方法である。
 今日では、機能性フィルムの発展により、ドライフィルムフォトレジストの伸びが著しい10)。ドライフィルム法は歩留まりの向上、フィルム両面同時ラミネート機11)(図3)自動現像機(図4)などにより工程の自動化・機械化・短縮化が図られ結果として、熟練度が不要で取り扱いやすいなど長所も多い。ただし一連のラインを構成しようとするとある程度設備資金がかかる点やレジスト膜がポリエステルフィルムと感光層で構成されるためにやや厚くなり、そのためサイドエッチングへの配慮が一層必要である。
 液体レジスト法は、スクリーン印刷でフォトレジストをべた印刷し、金属表面に10μm程度の薄膜を形成する方法である。ニカワが自然依存の素材なのに対し、ドライフィルムと同様に工業的に生産できる素材なので、品質的に安定したレジスト素材である。現像工程も、ドライフィルム法と同様に現像・水洗・乾燥を1台の連続した機械で行うことができ、少人数で合理的に生産できる。ただしベタ印刷などで印刷時のゴミへの配慮が必要である。現像液は炭酸ナトリウム1%の溶液で行う。
 スクリーン印刷法は、金属面に文字やパターンを直接的にレジストインキでスクリーン印刷する方法である。スクリーン印刷の製版そのものは写真感光法と同様な手法で作製するが、版材にナイロン・ポリエステルなどの化学繊維をバイアスに織ったものを使用する関係で厳密には画線部にその網目が出る。したがって精度の上では、写真感光法の方が優れているが自動化・ライン化すれば量産性は高い。用途や生産数、コストなどを勘案して写真感光法と印刷法を選択することになる。いずれのマスキング方法を取るにしても、現像や印刷の後に目視でマスキング面のチェックを行い、細かいピンホールなどがあれば、耐酸インクなどで修正を行い、完全なマスキング面を構成する必要がある。

 
 エッチング工程

 代表的な使用金属別エッチング条件は表2の通りである。エッチング時間はその深さと比例するが、通常のネームプレートでは、0.1μm程度の深さを構築することが多い。原理的にはバットに浸漬してもできるわけであるが、工業的には、連続的に板でエッチング加工ができる設備を使用する。エッチング液は首振り状の圧力をかけたシャワーから吹き出されることが多い。0.2μm程度は深堀と呼ばれ機械への通し数をあげることになるが、エッチングされた側壁のサイドエッチングの問題もあり、限度がある。一般的なエッチングネームプレートでは完成レベルで0.3mm程度の画線が限度なので、それ以上のものは版下段階で画線を少し太くするなどの工夫が必要である。なお両面をエッチングするためには、両面用の設備を使うか、片面を反復して繰り返すことになる。
 素材別ではステンレス鋼と黄銅とは同じエッチング液を使用する。ただし、両素材を同じエッチング液でエッチングすると多少影響があるので、別々のエッチング液を用意するか、ラインを分けて使用することが好ましい。
 アルミニウムの場合には、通常10%水酸化ナトリウム溶液で行われる。陽極酸化処理したアルミニウム面をマスキング・エッチングしたあと、さらにエッチング面を陽極酸化する方法もあるがコストがかかることもあり、近年はそのように凝った方法は減ってきている。

 
 後工程

エッチングによって文字パターン部分が凸や凹になる。そのままでもよいのだが、一般的には凹部分に塗装や色入れそして着色することがほとんどである。この場合塗装のはみ出しもあるので、後で板状のまま砥石研磨をし、所定の枠内に彩色する。さらに黄銅の場合には板状のままかプレスした後に各種のめっきをほどこして意匠性を高めることが多い。キリンス仕上げはアルミニウムの化学研磨と同様に光沢を出す方法である。
 素材が金属なので、途中工程や仕上げ工程でキズ取り、バリ取りや端面や表面の仕上げさらに光沢出しに羽布工程が入る。素材や要求される仕上げによって、羽布レースや研磨剤が選択される。 任意の形状にするには、数の少ない直線的なものはシャーリングで切断し、比較的数のあるものは金型を製作し、プレスで打ち抜き、孔をあけたりアールを付けたりする。外型とパターンとの位置関係を保つために、ガイド孔と呼ばれる小孔をあけてその孔を正にしてプレスする。ガイドをパターン印刷して、そのパターンをセンサーで自動的に拾ってガイドにしてゆくプレス機械もある。
 さまざまな表面処理が終了した後で、エポキシやウレタン樹脂をワークの上に表面張力を応用してポッティングして、製品に立体感と重厚感を増す方法もある。使用する樹脂や硬化剤と装置を工夫するならば、輸送機器のような使用条件の厳しい環境の製品にも応用できる。
 ネームプレートを機械などに取り付ける方法としては、ネジなどで物理的に固定する方法と接着剤で接着する方法がある。さらにワークに直接ロー付けやスポット溶接で足を付けることもできる。裏面に、接着剤を塗布したり接着紙を貼る場合には、近年用途に応じてさまざまなタイプのものが開発されているのでメーカーのカタログをみて目的に合ったものを選択すればよい。
 一方で昨今はリサイクルの問題もあり、回収後に簡単に脱着できるような工夫も要求され始めている時代でもある。

 
 おわりに

エッチングネームプレートは、スクリーン印刷、オフセット印刷などに比較して、化学的に凹凸ができているので、耐溶接剤、耐摩耗性などで各種試験にも最も良好な結果を示す。特に生産機械などの装置のように寿命が比較的長いものについては、PL法の関係もあって、エッチングネームプレートの使用が好ましい。
 以上化学的エッチングを中心に作製プロセスの概要を述べてきた。それぞれの過程でさまざまな薬品を使用するため、当然のことながら、これからの時代は、従来にも増して環境への十分な配慮が一層強く求められる。したがってエッチングのみならず、印刷・塗装
・めっき・陽極酸化などのすべての表面処理工程において、有害物質の削減や省エネ・省資源の取り組みが必要であり、このことは全表面処理に共通することである。
 ネームプレートは、エッチングに代表されるパターンニング技術を中核にさまざまな加工技術の組み合わせであり、その使用される用途も自動車・電気製品・一般機械など多種多様である。今日、大きな経済構造変化の中で、関連代替材料との競合が常につきまとう。しかし、同時に関連する諸々の加工技術も進歩するわけであるから、それらをうまく活用して組み合わせていけば、新しい付加価値の高い表面処理を提案できる可能性がある。必要なことは、そのもてる技術を一層研ぎ澄ますことである。

(1988.7.7受理)
 
 文 献

1)JIS Z 8304銘板の設計基準((財)日本規格協会、1984)
2)福島敏郎;金属表面技術便覧、p.200(日刊工業新聞社、1976)
3)ネームプレート製品カタログ(東京ネームプレート工業協同組合、1998)
4)警告プレートの耐久性試験結果(東京ネームプレート工業協同組合、1996)
5)福島久一;中小金属部品工業の構造変化−東京ネームプレート工業の実態を通して−
(日本大学経済学研究会経済集志第67巻3号、1997)
6)商品価値を高める為のネームプレート・ガイド(東京ネームプレート工業協同組合、1990)
7)上原洋一;新版スクリーン印刷ハンドブック、p.348
8)上原洋一;表面技術便覧、p.634(日刊工業新聞社、1998)
9)上原洋一;アルミニウム技術便覧、p.1795(軽金属出版(株)、1985)
10)多機能フィルム・膜編集委員会;多機能フィルム活用ノート((株)工業調査会、1991)
11)設備写真の提供は(株)クラナミ武居泰博顧問による。なお本稿執筆にあたり、貴重なコメントをいただいた。